
【Relation】石川県の中小企業経営者インタビュー vol.18|高校生専門学習塾・キャリア教育「タビト學舎」飯貝誠氏
Relation

石川県加賀市大聖寺にある学習塾タビト學舎。
今回は代表の飯貝誠(いいがい・まこと)氏に、事業を通じて子ども達と地域の未来にどう関わっているのかをお話しいただきました。
大人になることがわくわくする未来を描く
「学習」だけじゃない学習塾
まずは飯貝さんの経歴と、タビト學舎を設立したきっかけを教えてください。
私自身がこの大聖寺地区の出身で、県外の大学で法学部を卒業し、 IT業界に勤めました。
20代後半でこの先の生活について考えていた時に、幼馴染である今の妻と再会しました。
その時に「旅」の話で意気投合し、結婚後まもなくお互い会社を辞め、 新婚旅行がてら575日間に渡って世界35か国を旅しました。
帰国後は、システム開発のような大人数の一員として働くより、小規模でダイレクトに顧客と接することのできる仕事を、どこかの地方でできたらと考えていました。
そんな中、地元で「まちづくり学校 かがやき塾」をのぞきに行ったことが転機になりました。
「こんなにチャレンジングで面白い人達がいたんだ」「加賀は今から面白くなりそうなまちだな」と感じ、地元に戻ることを決めたんです。
Uターンしてから、山代温泉地区の学習塾の先生に「塾の生徒達に世界旅行の話をしてよ」と声をかけていただき、そこで講師として1年半ほど修行を積みました。
子ども達が成長していく姿や伝えることの難しさ、講義のライブ感にどんどんハマっていき、 2016年4月にタビト學舎を設立することとなりました。
(写真提供:タビト學舎)
とても刺激的な経歴なのですね。主な事業内容やサービスについてお聞かせください。
「タビト學舎」は高校生専門の学習塾です。国語・英語・数学をメインに個別授業や集団個別授業を行っています。
また高校3年生には面接や小論文などの指導も行います。
その他に「キャリア教育」も大切にしています。
今の高校生は、社会に出ていく一歩手前の時期であるにも関わらず、社会人や社会との接点が少ないと感じています。
そのため、進学校では特に社会への関心や解像度が低いまま進路選択を迫られるケースが多くなっています。
自分自身も「大学で法律を学んで、何でシステム会社なんだ」と言われたこともあり、若いうちに将来にきちんと向き合うことの大切さを考えるようになりました。
そんな想いから、「タビト學舎」ではキャリア授業の一環として、様々な業種で働く社会人のゲストトークを開催するなど、高校生が社会と接する機会を作っています。
ここが他の学習塾と大きく異なる部分だと思います。
地元のカッコいい大人達と出会うことで、「地元ってこんなに面白いんだな」と感じて欲しいんですよね。
高校生ぐらいで人生の憧れになるような大人に出会えると、その後の成長率が大幅にアップするんじゃないかなと思っています。
その他にも事業ではないですが、大人のサードプレイスとして「タビト學舎」をコワーキングスペースにご利用いただくこともあります。
利用者の方達がワークショップやイベントを開催してくださることもあり、学生はもちろん地域の方のコミュニティスペースとしての役割も果たしています。
(写真提供:タビト學舎)
現在の学習塾のトレンドと、その中での「タビト學舎」のポジションについてどのようにとらえられていますか。
現在のトレンドは動画コンテンツ配信型学習と参考書学習です。
まだもう少し先にはなりそうですが、 AI教材などの普及も始まっています。
となると「勉強を人間が教えるメリットは?」という問いが生まれてくるのですが、これは目下の課題になると思っています。
個人差があるのは当然なのですが、本当に様々な高校生がいます。
その中でも論理を読み解ることが難しい層や、識字障害や発達障害などのグレーゾーンの子などに関しては、まだまだ人間が見ていく必要があると思っています。
個人の特性をよく見ることができている点が私達の強みになっていますね。
また保護者の方からは「うちの子にもっと将来のことを考えるように言って欲しい」 とキャリア教育の面でも期待を寄せていただいています。
タビト學舎の中で大人のロールモデルに出会ってもらえると嬉しいですね。
(写真提供:タビト學舎)
地域と子どもは共に成長する
飯貝さんは地域づくりにも深く関わっているとお聞きしています。
現在加賀市のまちづくりにも携わっていて、「公益財団法人 あくるめ」や自身の起業のきっかけにもなった「まちづくり学校 かがやき塾」、子どもも大人も楽しく学び合える社会を目指す「第3職員室」などにも所属しています。
どれも共通して言えることなのですが、やはり「地域の担い手」を増やしていくことが自身のライフワークだと感じているからなんです。
そういった活動を通じて、子どもも大人も地域で暮らすことに不安や不満があったり、「自分って何なんだろう?」とモヤモヤを抱えていたりするんじゃないかと感じます。
そんな想いってなかなか家族や友達には出しにくいんですが、地域コミュニティの場だと意外と自己開示が出来たりするんですよね。
それを周りの人達が応援したり、自分もやってみようと行動したりと正のアクションが連鎖していくんです。
人は1人では立ち上がりにくい生き物なので、こういうコミュニティの力、応援し合う力はとても大切だと思っています。
こんな風にして行動できる大人が増えていくこと、自分の住んでいる地域が面白い場所であると思えることは、タビト學舎で学ぶ子ども達にとって大きな財産になると思っています。
話は少し変わりますが、経営者としての印象的な経験はありますか。
学習塾あるあるなのですが、複数の生徒が集団退塾しそうになる危機が過去にありました。
この時は本当に焦りましたね。
よくよく話を聞いてみると「タビト學舎に自分が誘って通塾しだした友人が授業中うるさい」と言うんです。
仲の良い友達同士だと思っていましたが「勉強をする」という面では一緒でなくても良かったみたいです。
この経験から、子どもたちの様子や感情というものに経営者としてもっと目を向けないといけないと思うようになりました。
この部分は他のスタッフに任せるなど仕組み化できないかと思っていたのですが、ここが経営者の役割だと気づくことが出来ました。
タビト學舎の今後の展望を教えてください。
みんなで応援し合い、学び合うコミュニティを作っていきたいです。
学びを「個」のものにするのではなく、みんなで学んでいくことの価値を高め、互いに応援し合える仕掛けを用意したいと思っています。
ここでの学びとは教科としての学習だけでなく、社会で生きていくことについて考えることも含みます。
そのために授業はもちろん、運営にもコミュニティづくりやチームビルディングのノウハウを取り入れていきたいと思っています。
正解のない世界だからこそ
最後に、これからの未来を創る高校生や子ども達へメッセージをお願いします。
現代には「絶対に失敗したくない」と挑戦することに不安を感じる子がたくさんいます。
だから「もっと気楽でいいんだよ!」と伝えたいです。
これからはすごいスピードで社会が変わっていきますし、だからこそ正解のない世界がやってきます。
つまり失敗もないということ。ぜひ気楽にチャレンジして欲しいです。
子どもを育てるのは教育機関だけではなく、周りの大人が自分自身も含めて育んでいく。
大人との接点が社会教育の現場であるという想いをもって地域から子ども達に関わっていって欲しいなと思います。
そうすればきっと子ども達が「大人になることがわくわくする未来を描く」ことができるようになると信じています。
(写真提供:タビト學舎)
設立:2016年4月
事業内容:高校生専門学習塾・キャリア教育
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