
湯るっと、かなざわ。銭湯めぐり。

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長町|「松の湯」で、湯るっとととのう。〜湯るっと、かなざわ。銭湯めぐり。
平日の仕事終わりに、ふと「今日は熱いお湯に浸かりたいな」と思うことがある。
そんな日にぴったりなのが、金沢市長町にある「松の湯」。
のれんをくぐれば、ふわりと広がる湯気と、どこか懐かしいお湯の香り。心がほどける準備はもう出来ている。
目次
歴史と新しさを感じる銭湯で、じんわり、ゆるっと。「松の湯」でととのう時間。

「松の湯」外観
歴史ある、新しい「松の湯」へ
「松の湯」ののれんをくぐると、広々としたうちっぱなしのコンクリートと、九谷焼が施されたタイルの待合室が迎えてくれる。2022年にリノベーションされ、まだ真新しい佇まいだが、どこか懐かしい匂いもする。
木目がきれいな下駄箱に靴を入れる。木の香りとともに、体も心もふわりとゆるむ。
下駄箱の横にある券売機に小銭を入れ、番台に券を出す。「サウナもお願いします」と伝えて、リストバンドを受け取る。実は支払いにPayPayも使えるから、財布を忘れても安心だ。

広々とした待合室

木目がきれいな下駄箱

券売機(英語にも対応している)

番台(PayPayで支払うときはこちらで)
まずはお湯でゆるめる
男湯ののれんをくぐり、程よい広さがある脱衣所のロッカーを開ける。木の温もりが心地よく、天井も高くて開放感がある。コート掛けがあることもグッとくるポイント。

のれんからも品の良さを感じる

清潔な脱衣所

冬場にはとても助かるコート掛け
浴室に入りまず目に飛び込んでくるのは、富士山と龍が描かれた、九谷焼のタイルが施された湯船。湯気の向こうに、きらりと光る伝統の美しさが広がる。京都の作家さんが描かれたものだという。
ちなみに女湯には曼荼羅が描かれているそうだ。

九谷焼のタイルが施された浴場:男湯は富士山に龍

九谷焼のタイルが施された浴場:女湯は曼荼羅
銭湯には珍しく、洗い場にシャンプーもボディソープもあるのがとても嬉しい。大きなシャワーヘッドから放たれるお湯の勢いが心地よく、たっぷりとした感覚が楽しめる。

シャンプーとボディソープが常備
いざ入湯。お湯の温度はしっかり熱め。夏場は41.5℃、冬場は42.6℃に設定されているという。お湯は地下水を薪で沸かしたものだそう。やわらかく、まろやかで、肌にしっとりなじむ。

浴槽(夏場:41.5℃・冬場:42.6℃)
ヒノキの香りと、熱いサウナ

サウナ入口
しっかり10分浸かり、体が温まったところで、水けをきり、いざサウナへ。
入った瞬間からヒノキの香りがふわりと広がり、木の温もりに包まれる。
「松の湯」のサウナはセルフロウリュができる本格仕様。柄杓を手に取り、熱したサウナストーンにゆっくりと水を注ぐ。じゅわぁぁぁ…しゅぷぷぷぷ…と蒸気が立ちのぼり、熱に包み込まれる。

サウナ内装(男性用105℃・女性用90℃)

セルフロウリュができるのも「松の湯」の特徴
席にサウナマットを敷き座るころにはもうすっかり、熱い。「これこれ、これがいいんだよなあ」と思わず心の中でつぶやく。
サウナストーンの中からトントゥがこちらを見ている。常連さんからのプレゼントらしい。
男性用サウナの設定温度は105℃(ちなみに女性用は90℃)。おそらく金沢市内トップクラスの温度。
普段は12分しっかり入るのだが、ここは8分で十分汗が出る。

サウナストーン

常連さんにいただいたというトントゥ
水風呂につつまれる、そしてととのう
ゆっくりと立ち上がり、サウナの熱をまとったまま、まずはシャワーで汗を流す。お湯に浸かるときと同じく、これも大切なマナー。

全身たっぷりと浴びられる大きめのヘッドシャワー(水圧もgood)
そして、さらにかけ水をしてから、深さ約1mの水風呂へ。水風呂も地下水のさらりとした肌触り。じわじわと15℃の冷たさが心地よくなってくる。1分半ほどで出る。

水風呂も地下水を使用している(水温15℃)
サウナ利用者専用外気浴スペースの扉をあけ、奥にあるグレー椅子に腰をかけて、静かに目を閉じる。心地よい風が気持ちよく、ふわふわとした浮遊感が訪れる。
以前はなかったが、足を乗せるテラスにスポンジが敷かれている。柔らかさがちょうどよく、これは利用者にさぞ喜ばれているだろう。
この流れを三度繰り返し、心と体が完全に「ととのう」。

外気浴スペース(男湯:4席)

外気浴スペース(女湯:3席)
じっくりととのった後は、仕上げの湯船へ。もう一度じんわりと温まり直す。
湯気の向こうから、常連さんたちの和やかな会話が聞こえてくる。どうもこの後の乾杯についての話だ。これもまた、銭湯の味わいのひとつ。
格別の一杯に向けて
風呂場から出て、扇風機の風にあたり、ドライヤーで髪の毛を乾かす。ドライヤーも無料で使えるから嬉しい。
忘れ物が無いかをチェックして、番台前のくつろぎスペースへ。
湯上がりに、冷たい伊良コーラを購入。かしゅっ。「ぷはぁ…」と喉を潤す。これがまた、最高。

脱衣所には扇風機も完備。

ドライヤーは無料。独り占めにならないよう注意

飲み物の種類も豊富
番台で下駄箱のカギを受け取り外に出ると、夜風が気持ちいい。
ほかほかの体を包むひんやりとした空気が、なんとも言えない心地よさだ。
「さて、何を食べようかな」なんて考えながら、ゆるゆると帰路につく。
「松の湯」のカナメ|インタビュー
運営者である神並大輝(かんなみ だいき)さんに「松の湯」の歴史や大切にしている想い、カナメ(要)についても話を聞いてみた。
「松の湯」の歴史と、突然の廃業
「松の湯」は昭和23(1948)年に開業し、70年以上にわたって地域の人々に親しまれてきた銭湯だった。
しかし、2020年、当時の経営者が突然亡くなり、それを機に廃業。建物は売却されることが決まった。
「家族で経営されていた銭湯で、ご家族は2階に居住し、上階は賃貸住宅になっていました。ただ、残されたご家族だけでは銭湯も賃貸住宅も経営が難しく、建物をまるごと売却する決断をされたのです」
そう語るのは、現オーナーから運営を任されている、当時不動産会社に勤めていた神並さんだった。
彼のもとに相談が持ち込まれ、物件の売却先を探すことになった。

運営者の神並大輝さん
銭湯を残したいという思い
売却先を探している最中、付き合いのあった不動産会社から連絡が入った。「銭湯の再生を条件に購入を検討しているところがある」という話だった。同社は日本の文化を伝えることを目的にインバウンド向けの町家宿などを展開しており、銭湯の再生にも強い関心を持っていた。
しかし、問題はすでに廃業していたこと。銭湯を再開するには営業許可を取り直す必要があった。
銭湯が減少し続けている金沢市内では、長らく新規の営業許可申請が行われていなかったため、許可取得は困難を極めた。
営業許可へ駆け回る
「不動産業界に転じて独立を考えていた私にとって、銭湯の運営は未知の世界でした。でも、銭湯が好きだったこともあり、なんとか営業許可を取る方法を探ることにしました」
だが、役所に相談に行くと、「新規の営業許可は難しい」との答え。思わず絶望しそうになったが、神並さんは諦めなかった。
浴場組合の理事を務める友人の父に相談し、銭湯経営に詳しい人を紹介してもらう。そして、役所と協議を重ねた。熱心なプレゼンの末、いくつかの条件を満たせば営業許可を取得できることになった。
地域の協力と再生への道
その条件のひとつが、地元町会からの要望書だった。
町会長も当初は戸惑っていたが、「地域のためになる銭湯を再生したい」という神並さんたちの熱意が伝わり、協力を得られることになった。
さらに、金沢市長へのプレゼンまで行い、ようやく2021年10月末に売買が成立した。
約1年にわたる挑戦が実を結んだ瞬間だった。
まさかの運営者への転身
「売却が決まったあと、不動産業の担当者から『銭湯の営業をしてみないか?』と言われたんです。驚きましたが、即答で『やります』と答えました。もともと独立を考えていましたが、それは不動産業としてのもので銭湯経営をするつもりはありませんでした。しかし、このプロジェクトに関わるうちに愛着が湧き、『この場所を自分の手で守りたい』という気持ちが強まっていきました。2022年5月から改修工事が始まり、同年11月26日、いい風呂の日に『松の湯』は新たな姿で生まれ変わりました」
未来へ続く「松の湯」
「一度廃業すると、再開には多くのハードルがあります。だからこそ、これからは『どうやって銭湯を残していくか』を考えなきゃいけない」と神並さんは話をする。
彼が見据えるのは、松の湯だけでなく、銭湯文化全体の未来だ。
全国的に廃業する銭湯が増えるなか、「継承する仕組み」を作ることが重要だと考えている。
「次の世代に、もっと気軽に銭湯を引き継ぐ方法を作れたらいいなと思っています。そうすれば、銭湯の文化はずっと続いていくはずです。そのためにも子どもから高齢者まで、多世代にわたって愛される居場所をつくっていきたいです。銭湯って、ただお湯に入る場所じゃないんです。人と人がつながる場所なんですよ」と神並さんは目を輝かせる。
そう。「松の湯」も、ただの銭湯ではない。ここには、地元の人々が集まり、旅人もふらっと立ち寄る。
常連さんが「おかえり」と迎え、はじめての人にも「いいお湯ですよ」と声をかける、そんな温かい場所だ。これが「松の湯」のカナメである。
「今の時代、こういう場が少なくなってきています。でも、お湯に浸かるだけじゃない、ここでの時間そのものを楽しんでもらえたら嬉しいですね」
そう語る神並さんの表情は柔らかい。
「松の湯」は、これからもこの場所で、人と人をゆるやかにつないでいく。
「松の湯」施設情報
【利用料金】
■銭湯
・大人(12歳以上):490円
・中学生〜大学生(13〜22歳):300円
・小学生(7〜12歳):130円
・幼児(6歳以下):50円
・ふれあい入浴:160円(金沢市ふれあい入浴補助券をお持ちの65歳以上の方)
■サウナ
・サウナ利用:360円(サウナマット付き)
・サウナ利用者貸しタオル:100円
・貸しタオル:200円
【設備】
・浴場2つ(夏41.5℃・冬42.6℃)
・洗い場(シャンプー・ボディソープあり。男湯14席・女湯16席)
・ドライサウナ(男湯105℃・女湯90℃。共にセルフロウリュ可能)
・水風呂(15℃。水深約1m)
・屋根付き外気浴スペース(男湯4席・女湯3席)
店名: 松の湯 住所: 石川県金沢市長町1丁目5番56号 電話番号: 076-208-7155 営業時間: 11:00〜23:00 定休日: 水曜日 Web: 一人当たりの予算: 〜1,000円 ※記事内の情報は記事執筆時点のものです。正確な情報とは異なる可能性がございますので、最新の情報は直接店舗にお問い合わせください。INFORMATION
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