石引|ギター、模型、まちの地図。子どもたちがふらっと出会う「石引アナーキー」

石引|ギター、模型、まちの地図。子どもたちがふらっと出会う「石引アナーキー」

石引商店街を歩いていると、ガラス越しに誰かが何かを作っているのが見える建物があります。看板は控えめで、入っていいのかどうか少し迷う。でも、気になって足が止まる。
「石引アナーキー」は、4組のクリエイターが仕事をしながら、子どもや街の人が自然に立ち寄る場所です。大人の仕事場のそばで、子どもがクリエイションに触れる偶然が生まれる。用意された答えではなく、「そこにあるもの」から場が動いていく。そんな場所の話です。

仕事場なのに、遊び場みたい。商店街の、ちょっと気になる入口。「石引アナーキー」

商店街の一角に、入っていいのかわからない建物がある

石引商店街を歩いていて、足が止まる建物がありました。ガラス越しに中が見えて、誰かが活動している。でも看板は控えめで、入っていいのかどうか少し迷う。

それが「石引アナーキー」さんです。

 

「大人の仕事場が、子どもの入口になっている」

ここは日々誰かが活動をしている場所です。ふと気づくと子どもたちがやってきます。

音楽をしていたらギターを弾いてみたいと言って触りに来る子。オンライン会議のすぐ横に、子どもが座っていることもあります。自由に子どもたちが出入りできるような空間です。

小学校と学童のあいだの通学路にある、という立地が活きています。学校帰りに前を通る。中で誰かが何かを作っている。ガラス越しにそれが見えるから、入ってみようかという気持ちになる。塾でも習い事でもなく、行っても行かなくてもいい場所が通学路の途中にあることの意味は、思っているより大きいのかもしれません。

大人たちが仕事をしている姿を、子どもたちが自然に見る。こんな働き方や仕事があるんだ。そんなふうに新しい世界に触れる入口になってほしい。

ただ、「石引アナーキー」さんの面白さは、子ども向けの場所として用意されすぎていないところにもあります。大人たちが本当に仕事をしている場所に、子どもたちがふらっと入り、音楽や建築、デザインやまちの活動に触れていく。その偶然の出会いが、ここでしか生まれない体験になっています。

ふらっと立ち寄れるのとは別に、毎週火曜日15:00〜18:00には「こどものアナバ」という学校の放課後に子どもが関われる回が設けられています。

内容はその時々で変わります。各イベントごとに変わるので随時インスタグラムをチェックしてください!

 

「子どもたちの居場所が、小さな街になった」

夏休みには建築模型のワークショップも行われていました。段ボールをベースに「居場所」を想像し、小さな模型として作っていく時間です。

(写真提供:石引アナーキー)

(写真提供:石引アナーキー)

印象的だったのは、完成した模型を1つずつで終わらせず、それぞれの居場所を並べて、ひとつの街のように展示していたことでした。

(写真提供:石引アナーキー)

大人が考える「家」や「建物」の形から少し離れて、子どもたち自身の感覚で街が立ち上がっていく。その光景には、この場所がやろうとしていることが、そのまま表れているように感じました。

こちらは、室内と外がシームレスにつながる半開放のお店。開放的な気分で過ごせそうです。

こちらはなんと山科神社。好きな神社の周りにあったらいいなと思うものを考えたら、大きな滑り台やベンチ、ブランコのある公園みたいな雰囲気になりました。

3階のベランダで花に囲まれ、ハンモックに揺られてくつろげる家も。

これは、壁に穴を開けて、そこから滑り台で下ってお風呂の部屋に入るという仕掛けだそうです。

1階に降りるとプールやテラスがあって、夏に最高な家もありました。

これは縄文時代の竪穴式住居を思わせるスタイル。下が完全なプールになっていて、外出のたびに水に濡れてしまうのは大変そうですが、洪水のときには浸水の被害を免れそうで、何かしら活用できそうだなとも感じました。

このワークショップのいいところは、秋元建築設計室さんが最初から制作物を決めてしまわないところです。大人が用意するのは、家具などの最低限のピースや、実際に作り上げるための技術的なサポート。どんな場所にするのか、どう並べるのか、何を作りたいのかという全体の構成やアイデアは、子どもたち自身が考えていきます。

だからこそ、常識にとらわれない発想が自然と出てくるのだそうです。大人が答えを教えるのではなく、子どもの想像が形になるように、必要なところだけ支える。単なる工作ではなく、「自分の居場所は、自分で作っていい」と感じられる体験なのかもしれません。

大人が提供する場所ではなく、子どもが作っていく場所になるように。いずれは子どもたち自身がやりたい企画を立ち上げる場になれたら、という言葉が印象に残りました。最初は何もなかったよね、とあとから振り返れる場所。一緒に成長していくという言い方が、しっくりきました。

自分たちの仕事を活かしたものというより、そこにあるものから。知り合いから梅が手に入れば梅ジュースのワークショップ、花があれば花を使ったワークショップ。良いものがあれば、それを活用していくスタイルです。

だから、次に何が行われるかは決まっていません。行ってみたら梅かもしれないし、花かもしれない。その時々で開催されているものに参加する。いつ行っても面白い出会いがある場所です。

建築模型のワークショップで印象的だったのは、できあがったものを「その日だけの作品」で終わらせない感覚でした。子どもたちが作った居場所を並べると、そこに小さな街が生まれる。ひとつひとつの制作物が、次の見え方や体験につながっていきます。

この場所では、前からあるものをその時々の場づくりに合わせて使っています。もともとあった家具も、わたあめの台になったり、ほかのワークショップの作業台になったりする。専用のものを新しく用意するのではなく、そこにあるものを自然に活用していくところに、この場所らしさがあります。

(写真提供:石引アナーキー)

最近では、珠洲に伝わる農耕儀礼「スズのアエノコト」に関する公開展示も行われていました。田の神を迎え、収穫への感謝と翌年の豊作を願う行事で、国の重要無形民俗文化財かつユネスコ無形文化遺産にも指定されています。能登半島地震の影響で継承が難しくなるなか、会場には神座や供えの場が再現され、訪れた人が儀礼のしつらえや背景に触れられる場として設けられました。(写真提供:石引アナーキー)

石引商店街の「ゲバゲバ祭り」に出したわたあめも、同じ流れでした。

「Tomorrow’s Lunch Inc.」の方が以前にわたあめ屋をやっていて、そのとき残っていた機材を有効活用しようとしたことから始まりました。自分の好きな色、好きな形で作ってもらう。だから思いがけない形になって、それがそのまま面白い。あるものを活かしながら、そのなかに自分たちが伝えたい体験を入れていくスタイルでイベントを行っています。

ギャラリーとしての使い方も、これから育てていきたいことの1つです。「SCALA the Design」の北川徹郎さんが制作した作品や、ほかのクリエイターの作品を展示する場として開いてみたところ、思いがけず多くの人が集まったといいます。

ここにいる人たちは、普段それぞれの仕事をしています。でも、外から見ているだけでは、その人がどんな仕事をしていて、何を作っているのかまではなかなか伝わりません。だからこそ、この場所をクリエイターの発表の場としても使えるようにしていきたい。完成した作品だけでなく、どんな仕事をしている人がここにいるのかを、街の人や子どもたちが知るきっかけにしたいのだそうです。

このとき印象的だったのが、ただ作品を展示して終わりにしなかったことでした。子どもであっても、大人であっても、クリエイションに触れる時間はそう多くありません。ギャラリーは街にあっても、入るには少しハードルが高い。作品を見るときのマナーも含めて、子どもたちが自然に入れる入口を作れたら、という思いがありました。

そこで、展示されている作品をもとに塗り絵ができるようにしたところ、中学生の男子3人が部活帰りのような雰囲気でやってきて、塗り絵をしていったそうです。作品を見るだけではなく、少し手を動かして関わってみる。見る側と作る側の距離が、同じ部屋のなかで少し近づいていくような時間でした。

 

「4組が選んだのが、石引だった」

では、この場所はどうやって生まれたのでしょうか。

もとは1階が洋食店、2階が美容室。それから20年ほど空きビルだった場所を、現在のメンバーが手を入れながら使いはじめました。壁のオレンジは、もとの内装を活かしてメンバー自身がDIYで塗り直したもの。赤い部分はあとから新しく作り足したそうです。言われなければ、美容室だった面影はほとんど残っていません。

始まりは、金沢市の施設「金沢未来のまち創造館」に入居していたスタートアップ支援の枠組みでした。3年間で卒業する仕組みのなかで、その次にどこへ行くかを話し合ったとき、同じ場所にいたメンバーのうち、想いを共有できる人たちで一緒に拠点を構えることになりました。

市の施設を卒業したあと、自分たちで手を入れながら作った場所であることも、これまでとは大きく違うところでした。

石引を選んだ理由もいくつか聞かせてもらいました。金沢美術工芸大学が近く、中心部に近いのに商店街にはゆったりした空気がある。こだわりのある店も多く、夜遅くまで作業をしていると、街を歩く人の姿が見えることもあるそうです。

子どもがふらっと立ち寄れる居場所として開くのが面白いのではないか。その発想も、通学路に面したこの立地から生まれました。

では、その4組とは誰なのか。1階には、ブランディングやデザインを手がける「SCALA the Design」さんがあります。代表の原嶋なつみさんと、メンバーの北川徹郎さんが活動する、金沢を拠点にしたクリエイティブカンパニーです。

同じく1階に入っているのが、代表・澤田雅美さんの「合同会社かなざわざ」さん。金沢の文化やアートを生かしながら、体験コンテンツや観光事業、イベントの企画・運営を行っています。

2階には、代表・守田大介さんの映像制作会社「Tomorrow’s Lunch Inc.」さん。映像制作やドローン撮影、VR事業など、最先端の技術を駆使した表現を手がけています。

そして、同じく2階で活動しているのが、代表の秋元俊介さんと秋元悠子さんによる「株式会社秋元建築設計室」さん。金沢を拠点に、住宅から公共建築まで幅広く手がける建築設計室です。

2階の一角には、株式会社秋元建築設計室さんの設計中の図面や模型が、隠されずにそのまま置かれていました。完成品だけでなく、ものがどう作られていくのか、その途中が見える空間です。

ジャンルはばらばらですが、共通しているのは、何かを作る人たちであること。閉じたオフィスで働くよりも、街とつながりながら働くほうが刺激がある。設計の仕事でいえば、まちづくりという分野を持ちながら働けることに魅力がある、と話してくれました。

 

「シェアオフィス」ではない理由と、これから

よくシェアオフィスと言われるそうですが、そこは違うと明確に教えてくれました。

同じ枠組みを卒業したメンバーのなかで、考え方や価値観が近い人たちが集まっている場所。人をどんどん増やしていくためのオフィスではなく、それぞれのメンバーが自分の仕事をしながら、街との関わりを育てている場所です。

では、「アナーキー」という少し強い言葉には、どんな意味があるのでしょうか。

(写真提供:石引アナーキー)

由来は、自由と自治によって場をつくる「アナキズム」。誰かが上から決めるのではなく、自分たちで話し合い、手を動かしながら場を作っていく。4組のあいだに上下関係はなく、必要なルールや関係も、そのつど作り直していく。使い方に正解がないからこそ、空間にも変えられる余白を残しているのだそうです。

部屋の名前にも、この場所の考え方が表れています。1階には「アナバ」「まちのえんがわ」、2階には「ニゲバ」と呼ばれる部屋があります。街に開く場所があり、少し閉じられる場所もある。使い方を決めきらず、その時々で変えていける余白が、名前にも空間にも残されています。

イベントの日でなくても、手を動かせるものがあちこちにあります。外にある「まちのえんがわ」と名づけられたスペースは、街に開かれた場所として作られていて、関わり方を決めつけない仕掛けが置かれています。

壁には石引周辺エリアの地図。通りかかった人が、自分のおすすめの場所をペンでシールに書いて、地図に貼っていくものです。最初は数枚だったのが、貼ってあるから貼ろう、という感じでどんどん増えていきました。すでに誰かが書いているから、自分も書ける。いつの間にか増えていったのだそうです。

外にはベンチとピアノ。座って休んでもいいし、自由に弾いてもいい。1階でギターを弾く子どもの音が、そのまま外に流れていくこともあります。

地図に書き込んだり、ピアノを弾くのはいつでも自由です。申し込みも順番待ちもいりません。通りかかって、好きな場所を1つだけ書いて帰るのも面白いなと思います。

仕事も生活も趣味も、全部いっしょに走っている。だから、そこを開放すると、それが仕事になったり、また誰かを巻き込んだりして、渦のようなものができていく。

最近は音楽の動きも始まっています。夜に音を出していても、ただ騒がしいというより、誰かが何かをしている空気感が面白いなと思います。メンバーにはバンドをしている人もいて、ギターが置かれていることもあります。

あるとき、ギターをやってみたいという子が来て、ギター教室のような時間が生まれたそうです。子どもたちが演奏する機会を作ってみることもありました。音楽も、ここではクリエイションの1つです。

音楽を地域から発信していくプロジェクトも動き始めています。学校や地域、暮らしの延長にある場所から音楽が立ち上がっていく。地域の課題に向き合うときも、ただ真面目に考えるだけでなく、楽しいと思える形にしていく。そこに、この場所らしさがあります。

音楽やダンス、パフォーマンスが混ざり合うような場。少しお祭りのようで、サーカスのようでもある、エンタメ性のある空間。誰かが演奏し、誰かが踊り、見ているだけでも参加できる。表現がショーのように立ち上がる場所になったらいいな、という話も出ていました。

趣味として切り分けるのではなく、仕事も生活も音楽も同じ流れのなかにある。この場所を開くことが、新しい仕事やプロジェクトにつながっていくのかもしれません。

ローカルすぎず、執着しすぎず。拠点にしばられず、どこへでも行くメンバーが多いのだそうです。地域にもつながっているけれど、外にも開いている。風通しをよくしておくことで、自分たちを通して間口を広げていく。そういう働き方、生き方をしている、という言葉がありました。

 

行ってみたい人へ

常に開放しているわけではありませんが、人がいて対応できる状況であれば、空間をお邪魔させてもらえることもあります。

「石引アナーキー」は庭くらいの感覚、という表現がしっくりきました。外から様子は見えるけれど、あくまで自分たちの活動の拠点でもある。その距離感が、この場所らしさなのだと思います。

子どもたちが鳥のようにふらっと来て、ちょっと何かやって帰っていく。そんなゆるやかな関わり方がしっくりくる場所です。

石引商店街を歩くのが好きな人。金沢で活動するクリエイターの空気に触れてみたい人。子どもの新しい居場所、わくわくを探している人。そんな人にとって、「石引アナーキー」さんは面白いかもしれません。

訪れるときは、Instagramなどで開放日やイベント情報を確認してからがおすすめです。もし中を案内してもらえる機会があれば、「アナバ」や「ニゲバ」といった部屋の名前の由来も聞いてみてください。カナミー金沢の記事を見て来ました。そのひとことがあれば、たぶん十分だと思います。

INFORMATION

店名:

石引アナーキー

住所:

石川県金沢市石引2丁目6-12(まちかどビル1F・2F)

営業時間:

「こどものアナバ」毎週火曜日 15:00~18:00

定休日:

火曜以外の日

※記事内の情報は記事執筆時点のものです。正確な情報とは異なる可能性がございますので、最新の情報は直接店舗にお問い合わせください。

WRITTEN BY
ほしのつづみ

ほしのつづみ

ライター

 これまでコーヒー専門店での経験を経て、現在は地域のお店を取材し、その魅力を伝える活動をしています。  お店を訪れると、店主の想いが空間や商品に形となって表れ、その景色に心を動かされてきました。  私は、その想いを読者に伝わる言葉へと変えていく「媒体」でありたいと考えています。金沢を拠点に、地域で挑戦するお店や人々の魅力を、丁寧に届けてまいります。