石引|カステラ、ケーキ、パンが愛され続ける理由。石引に根ざす老舗「別所文玉堂(べっしょぶんぎょくどう)」

石引|カステラ、ケーキ、パンが愛され続ける理由。石引に根ざす老舗「別所文玉堂(べっしょぶんぎょくどう)」

金沢・石引商店街に、カステラを看板にしながら、ケーキもパンも揃うお菓子屋さんがあります。「別所文玉堂」さんです。初めて訪れたとき、正直なところ「カステラ屋さん」のつもりで扉を開けました。けれど店内に足を踏み入れると、ケーキが並び、パンの香りが漂い、気づけばあれもこれもと手が伸びていました。明治から5代にわたって受け継がれてきたカステラの技術が、洋菓子へ、パンへと自然に広がっていったこのお店。流行を取り入れながらも、おいしさの核はぶらさない。その理由が、ひとくち食べるとじんわりと伝わってきます。

明治から5代。変わらない核と、時代に合わせて増えてきたものが、いまをつくっている。「別所文玉堂(べっしょぶんぎょくどう)」

石引商店街にひっそりと、知る人のみぞ知るお店

金沢・石引商店街を歩いていると、地元の人がわざわざ買いに行くというカステラ屋「別所文玉堂」さんが見えてきます。観光客が立ち寄る場所というよりも、地元の人に親しまれている空気が漂っており、なんだかほっとする気持ちになります。

店舗前に駐車場への案内があり、お店を左手に進んですぐの角を左折すると「アールグレイ石引」というマンションの入り口のすぐ右側に、複数台が停められる広めの駐車スペースが確保されています。

 

カステラだけじゃない。扉を開けると広がる、選ぶ楽しさ

まず、お店に入る前に外から様子をのぞいてみると、3斤ほどの美味しそうな食パンがおいてありました。この食パンは好きな分だけカットしてもらえるスタイルで、価格は1cmあたり30円。人気のため、前日に電話予約を入れて買いに来る人も多いそうです。学校や飲食店などにも卸していて、暮らしの中にすっと溶けこんでいる味です。

その光景を横目にガラガラと扉を開けると、カステラがずらっと並んでいました。

左側にはケーキコーナーがあり、気になるものがたくさん並んでいます。300円〜400円程度で、日常的に買いに行ける価格帯なのが嬉しいですね。

最初はカステラ専門店という印象で足を踏み入れたはずなのに、左側にはケーキが並び、入口にはパンの香りが漂い、「少しずつ、いろいろ」買いたくなる誘惑に駆られます。日常のおやつや手土産を選ぶ人の動線が自然にできていて、選ぶ楽しさがぎっしりと詰まっています。

 

ひとくち食べると、また手が伸びる。やさしい甘さの連鎖

●フレッシュアップルパイ 300円(税込)

別所文玉堂さんのアップルパイは、りんごのボリュームがしっかりあって「りんごを食べている」感じがダイレクト。店主の別所さんいわく、「りんご」を食べているという感覚を出すために、大粒のりんごを特別に仕入れて使っているのだそうです。ひとくちめで感じたのは、生地の香ばしさ。バターの香りがふわっと立って、りんごのやさしい甘さをきゅっと引き締めてくれます。甘さだけで押し切らず、ほどよい酸味と食感が残ります。

 

●フランスのおすすめチーズケーキ 350円(税込)

口に含んだ瞬間、ふわりとほどけていくような食感に思わず息をつきます。甘さが前に出すぎることもなく、気づけばもうひとくち、と手が伸びてしまい、あっという間になくなってしまいました。

 

●ガトーショコラ 350円(税込)

表面を覆うチョコレートコーティングがとろりと溶けて、チョコムースの甘さが口いっぱいに広がります。満足感はしっかりとあるのに、後味が重くならない。コーヒーが恋しくなる1品です。

 

●アップルシュトゥルーデル

りんごの大粒ならではのしっかりとした果肉感に、レーズンの甘さとくるみの香ばしい歯ごたえが加わって、満足感のある味わいです。
※こちらは店頭販売ではなく、事前の取り置きや、スーパーで販売している菓子パンとのこと。価格や販売状況については、来店時に店頭でご確認ください。

 

武士から文具屋、そして菓子職人へ。明治から続く、5代分の積み重ね

 お話をお聞きしてたいへん興味深いなと感じたのは、このお店が「カステラ屋さん」というひとことに収まらない、深い歴史を持っていることでした。

店主さんが語る家伝によると、ルーツをたどれば戦国時代の兵庫県の三木城にまでさかのぼるといいます。城主・別所長治は、織田信長の命を受けた羽柴秀吉の兵糧攻めに2年以上耐えたのち、城兵の助命を条件に自害。その後、別所の一族・家臣の一部は秀吉についた流れの中で前田利家公とともに金沢へと渡ってきた。というのが、代々伝わる家の言い伝えです。

明治の廃藩置県で武士としての職を失った先祖は、金沢の尾張町で文房具店を開きました。「文玉」という店名は、そのときの「文房具屋」の名残です。その後、初代の別所英作さんが大阪や神戸でお菓子づくりを修行し、現在の地で菓子屋として再出発したのが「別所文玉堂」さんのはじまりだそうです。

明治10年(1877年)ごろには商工会議所への登録記録も残っており、創業はその頃とされています。現在は実質5代目。戦国の記憶が、菓子という形で今日まで生き続けています。

 

カステラで磨いた技術が、ケーキにも、パンにも生きている

右側が5代目店主の別所雄吉さん。左側が雄吉さんの息子さん

お店の幅が広がっていった背景には、時代の変化がありました。戦後、和菓子から西洋の生クリームの文化が伝わっていく中で、洋菓子がぐっと身近になり、洋菓子店が日本に広まっていった。時代の変化を見て、現在の店主(5代目)から洋菓子やパンづくりへと足を踏み入れていったのだといいます。

「カステラをメインに取り扱っていますが、パンもものすごく人気があります」と店主の別所さん。

パンづくりで印象的だったのが、冷蔵庫でおよそ1週間かけて発酵させるというお話。

「短時間で発酵させれば時間も手間も省けるのですが、冷蔵庫でゆっくりと低温発酵させることで本来のパンの菌がより大きく多く育ちます。常温では繁殖しやすい雑菌も、低温環境では抑えられる。だから味がまったく違うんです」

数量を絞って焼くからこそ、午前中には売り切れてしまう日があるのも納得でした。

 

そして改めて感じるのが、カステラという長年の看板商品が持つ、根のような役割です。

「卵と砂糖と粉というシンプルな素材で、配合だけで調整します。シンプルな配合だからこそ、とても難しいです」と別所さん。別所文玉堂さんのカステラは、卵を通常の3倍ほど使うのが特徴といいます。だからこそあの鮮やかな黄色になり、しっとりとした食感が生まれます。

「粉を極限まで少なくして、卵の力でふくらませる。長年の蓄積でできた技術なんです」

その言葉の裏に、代々受け継がれてきた職人の知恵が透けて見えます。


こちらは「別所文玉堂」さんで引き継がれている、メニューやレシピが当時の言葉で記載されている資料とのこと。長い歴史を感じますね。

昔は1本売りが主流だったカステラも、いまは食べやすいように小さくカットして個包装にしたものがずらっと並んでいます。時代が変わっても、大事な要となるものは素材の配合へのこだわり。

「カステラで培った甘さ加減や焼きの感覚、卵と粉のバランス感覚が、ケーキにもパンにも全部つながっています」

長年の看板商品があるからこそ、洋菓子もパンも、まったく別の挑戦としてではなく、日々の積み重ねの延長として自然に派生していく。その土台があるから、新しいものが増えてもお店の輪郭がぶれないのです。

 

流行を取り入れながら、おいしさの核はぶらさない

明治から今日まで続く秘訣を尋ねると、別所さんはこう語ってくれました。

「創業当初はこの店の周りにも数か所ケーキ屋さんなどがあって賑わっていたのですが、今はもう残っていません。時代の切り替わりが激しいので、常にアンテナを張っておく必要があります。でも、流行りを追いかけるだけではだめで、美味しくなかったら本末転倒で意味がないですから」

こちらは日露戦争の時代の「別所文玉堂」さんの光景です。当時の石引はたくさんのお店と人でにぎわっていたそう。

テレビで話題の食材が出れば、すぐに取り入れてみる。でも、それがお店の味に合わなければ消えていく。残るのは、長い時間をかけて磨かれた「おいしい」だけ。カステラ、ケーキ、パン。それぞれが別物の商品ではなく、明治から続く積み重ねの延長線上で、見えないところでつながっていました。

 

手土産にも、自分へのご褒美にも。何度でも寄り道したくなる石引の1軒

「別所文玉堂」さんは、晴れの日の手土産にも、ふとした午後の自分へのご褒美にも、ちょうどいい距離感で立ち寄れるお店です。やさしい甘さ、ほどよい満足感、そして気づけばいつも「もう1種類」手に取ってしまう楽しさ。次に伺うときはいつもの定番にするか、また違う新しいものにするか悩みながら買いたいと思っています。

INFORMATION

店名:

別所文玉堂

住所:

石川県金沢市石引2丁目5-2
(駐車場あり)

電話番号:

076-222-3939

営業時間:

7:30~19:00

定休日:

日曜日および1月1日・2日・3日

一人当たりの予算:

〜¥1,000

※記事内の情報は記事執筆時点のものです。正確な情報とは異なる可能性がございますので、最新の情報は直接店舗にお問い合わせください。

WRITTEN BY
ほしのつづみ

ほしのつづみ

ライター

 これまでコーヒー専門店での経験を経て、現在は地域のお店を取材し、その魅力を伝える活動をしています。  お店を訪れると、店主の想いが空間や商品に形となって表れ、その景色に心を動かされてきました。  私は、その想いを読者に伝わる言葉へと変えていく「媒体」でありたいと考えています。金沢を拠点に、地域で挑戦するお店や人々の魅力を、丁寧に届けてまいります。